子供の頃にやった影絵遊び。両手を組み、キツネやカニの形にして影を映す。初めてやったとき、子供心に感心した覚えがある。
大人になってそんなこともすっかり忘れていたのだが、たまたま手に取った本で影絵を見た。ただ、よく知っている形ではなく、一味違うものなのだ。
よく見ると、どうも現代のものではない。江戸時代に描かれたものらしい。
江戸時代の人もやっていた影あそび。それを自らの体で再現してみつつ、自分なりの新作にも挑戦してみました。
(小野法師丸)
影あそびを思い出すきっかけになったのは、家にたまたまあった『名画クラシック葉書』(マール社)という本。日本の古い絵を題材にした、葉書のデザイン集だ。
その中に、こんな作品があった。
歌川国芳の作とされる絵を使ったデザインだ。上段は松の木、下段は梅にウグイス。表現しようとしているモチーフのチョイスが渋い。松ってなかなか出てこない。
子供の頃に遊んだのと違い、全身を使っているのも特徴だろう。おもしろそうじゃないか、これはやってみたくなる。
白い布を買ってきて吊るし、ライトで照らせば影絵ステージの完成だ。よし、やってみよう。
まずは松に挑戦してみたいのだが、作中人物が使っているような三度傘など持ってない。代わりになんとか松を表現できそうなものはないかと思い、扇子で試してみた。
なんか、全然イメージと違う。どう考えても松ではない。
扇子を代わりに使っているということよりも、もっと根本的な問題がありそうだ。写真をじっと見つめて、改善の余地がないかと考えてみてひらめいた。
頭にも扇子を追加してみた。それが根本的な改善なのかと問われれば言葉をにごすしかないが、できる限りのことはして松に近づきたい。
学園マンガの不良みたいになっている自分の姿にも驚いたが、再び松になってみる。
松であることを100としたとき、さっきのが0ならば、今度は3くらいになったというところか。進歩とも言えない範囲での進歩だが、見ている方々の譲歩を期待したい。
難しい。思っていたよりうまくいかない。そして実体はこんな感じだ。
江戸の人がやっている様子はとても粋なのに、私がやると単におめでたいだけだ。愚かしい、と言ってしまっても否定はできないかもしれない。
もうちょっとどうにかならないか。先ほどの葉書のもうひとつの方、ウグイスもやってみよう。
うーん、松よりは少しだけマシだろうか。それでもまだまだうまくいっているとは言い難い。
改善を目指していろいろ試してみること数十分…。
ウグイスというのは無理だが、鳥というところまではなんとか行けた気がする。見本の作品に比べると完成度は格段に低いが、とりあえず鳥だ。
コートをかぶったりハンガーを頭につけてみたりと、いろいろと工夫をしてみた。
少しはうまくいったというところなのだが、やはりここでも舞台裏のアホっぽさはぬぐえない。あくまで影絵は影だけを楽しむといいのだと思う。