「すいませーん。……すいませーーーーん。すーいーまーせーんーーーー」
『やきそば』と書かれた赤いのぼりの前で、私は大声を出していた。
返事がない。
「ねえ、店の隣につながってる家に声かけたほうが、いいんじゃない?」
友人のR子が言う。隣の、すこし窓の開いた民家のすき間をのぞいてみる……と、テレビを見ている、黄色いTシャツを着た女の人の、まるい背中が見えた。
「すー、すいませんー」
「………………あ、ごめんなさい、ハイハイ」
「あのう、やきそば食べたいんですけど……いいですか?」
「あ、いいですよお〜、ちょっと待ってくださいねえ」
狭い店内に入って、ビニール張りの椅子に座る。暑い中を歩きたおしてきたので、汗だらけだった。頭の中で「コーラとヤキソバ」の味を思い浮かべていた。
(text by 大塚幸代)
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